感覚派アスレティックトレーナー  身体と会話する日々
マッサージ師、鍼師であり、アスレティックトレーナーでもあるフィジカル系職人が、身体について、スポーツについて、その他よしなし事について綴る、教養系?ブログ
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陸上競技人 山西哲郎先生(恩師 山西哲郎先生 その4)
陸上競技人としての山西哲郎先生には、
(元)競技者と指導者の2つの面があります。

競技者としての山西先生については、
私は先生自身の語られたお話と著作とで知るのみです。
大学で本格的に陸上競技を始めた先生は、
箱根駅伝を走られたことも、
関東インカレインター・カレッジ)のマラソン(今はハーフマラソンが行われている)
に出場したことなどを知るのみであり、
一流の学生ランナーであったとは言えないことも知っています。

指導者としては、
特に群馬大学陸上競技部(36年間)についてみれば、
日本を代表する選手を育てたということもなく、
大学を関東の強豪校にしたわけでもありませんが、
違った意味で優れた力を持った指導者であったと思います。

まず、何が優れていたのかというと
単なる勝ち負けや技術論、戦術(駆け引き)のレベルで終始するのではなく、
「陸上競技とは何ぞや?」という思想・哲学がある
ということです。
陸上競技の源を、人類の進化史と歴史から考察し、
人間の自然な衝動の発露としての走・跳・投があるのであり、
生きるということとこれらの運動はイコールで結ばれているのであり、
だからこそ走ること跳ぶこと投げることそのものが「喜び」を生むのである。
競争の面白さも人間の感情としてあるが、
それだけなら水泳でも野球でもサッカーでもチェスでもいいはずで、
「なぜ陸上競技なのか?」の答えにはならない

こうした(私なりに理解した)考え方は、
私に陸上競技をすることの自信を与えてくれました。

では、山西先生はスポーツ学者らしい哲学・思想を持っているだけかと言うと
トレーニング法に関しても優れていたのではないかと思います。
特に中長距離走のトレーニング法については
山西先生はその著作でもトレーニング法を詳しく書いているように
知識も豊富です

運動生理学的な知識も含め、
大学などのコーチ・監督にいろいろ相談をされることもあったようです。
(以下に述べる学生時代のトレーニングは、
主に新入生と中長距離ブロックでのお話です。)

中長距離のトレーニング法に関しては
筋力トレーニングを重視していたことも特筆されるべきでしょう。
それはセラティの影響もあるかもしれませんが、
私が学生時代(1979~1984)にやった(やらされた)トレーニングを考えると
クロストレーニング」を意図して取り入れた、
今でいう「コア体幹トレーニング」や「バランス・トレーニング」をやっていた、
という部分が(今になってみると返って)先進性があったと言えると思います。

クロストレーニングとは、専門種目のトレーニング意外のトレーニングを行うことです。
例えば、球技種目や陸上競技の選手が水泳を取り入れたり、
前へしか走らない陸上競技の選手が球技を取り入れたり、
スキーや水泳の選手がランニングを取り入れたりすることです。
こうすることで、専門的トレーニングではあまり使わない筋肉を刺激したり
関節の動く範囲や力のかかり方やスピードが変わることで
関節の機能と筋力や筋のコーディネーション能力などを維持または向上させ、
オーバーユースなどのスポーツ外傷・障害を予防したり、
総体的な体力・運動能力を維持・向上を計る
のです。

1970年代~80年代あたりでは、クロストレーニングという概念は
日本にはあまり普及していなかったと記憶していますが、
山西先生は当時クロストレーニングという呼称こそ使っていませんでしたが、
実際のトレーニングは正にクロストレーニングを取り入れていました

それは、当時「補強」と呼ばれていたエクササイズが中心ですが、       ※1
自分の身体を負荷とした筋トレや様々なパターンのジャンプやダッシュ、
ハードルを用いてジャンプしたりくぐったりする体操的な運動、
身近な重量物を用いた筋力強化運動などをやらされました。
特にケガをして走れない時に勧められたのが
スポーツ自転車(ロードレーサー)で走ることと水泳でした


上で紹介した運動の中には
逆立ち手押し車セミと称する木の幹にしがみついてるトレーニング、    ※2
ハンマー投げ用のハンマーをスイングする(左右10回ずつ回す)などは、
体幹(コア)の強化メニューとして優れているし、
バランスを崩さないようにとることで一層コアの機能が強化できます
。     ※3

山西先生の中長距離走の専門トレーニングは、
セラティ流(そのままではなかったと思います)、
リディアード式、
インターバル・トレーニング
などがすべて取り入れられていたようです。
当時、年に何回か合宿で行っていた東京大学検見川グラウンドなどでは、
リディアード式のヒル・トレーニングをよく行いました。
むしろヒル・トレーニングを行わせたくて
土(草地)の坂の多い東大検見川グラウンドを選んだのかもしれません。


この辺で、山西先生の群馬大学監督時代の主な実績を挙げてみます。

群馬大学の教え子には、中長距離ではあまり強い選手が生まれませんでしたが、
1978年の日本インカレで1500で決勝に残り、
前半先頭を果敢に引っ張り8位に入った小林均氏が唯一特筆されます。
順位(得点)を意識しすぎて牽制し合う強豪大学の選手たちを、
不利を承知で弱小無名の群馬大学の選手が引っ張ったのですから、
後輩としては今でも胸がすく思いがします。
また、同じ1978年正月、当時山西先生が指導していた拓殖大学駅伝チームが
箱根駅伝で8位に入り翌年のシード権を獲得しました。
(大学時代、よく拓殖大学(中長距離ブロック?駅伝部?)と合同で合宿しましたが、
 練習ではレベルが違いすぎて苦労しました。)

私が入学・入部した1979年、
5月に行われた関東インカレでは群馬大学は2部優勝
し、
翌年は1部に昇格することが決まりました。
(1980年のインカレでは1部で最下位になり
2部へ降格してから現在に至っています。)
この1978年~1979年は山西先生の監督人生でも
出色の時期ではなかったでしょうか。

この他には、1996年の日本インカレ男子走り幅跳びで
瀬山亮君が優勝したり、
同じく1991年の日本インカレ男子400mHで
狩野豊君が8位に入賞したりするなど、
時々個人でインカレや国体等で活躍した選手が現れています。         ※4


※1 「補強」とクロストレーニング

補強(運動)」とは、
通常は体重のみを負荷にして行う筋力トレーニングが多い。
腕立て伏せやシットアップ(腹筋)、背筋、スクワットなどであるが、
そのバリエーションは多い。
多くの中学・高校の運動部で、それぞれのやり方で広く行われていたと思う。
競技の専門的なトレーニングに意図的な「補強」を加えることは
今で言うクロストレーニングの意味合いを持つ。
しかし、真にトレーニングの「全面性の原則」に従って
クロストレーニングとしての効果を高めるには、
水泳、バイク(自転車)、スキー、専門以外の球技など
目的と効果を考慮して幅広く計画的にトレーニングに取り入れるべきである


前の方で「(今になってみると返って)先進性があった」と書きましたが、
この後出てくる逆立ち・手押し車・セミなどを含めて、
自体重での補強・ハードル補強等々ここで取り上げたトレーニングは
個々に見ると実はどれも目新しいものではありません。
むしろ古くさいくらいのトレーニング法です。
金がない、(商品としての)道具もない時代の
先人達の知恵から生まれて広く行われてきたトレーニングです。
ところが、ウエイト・トレーニングの限界が(大げさに)言われるようになり、
>「体幹」から「コア」と呼び方が変わり
やれ「インナーマッスルだ。」「バランスだ。」「スタビライゼーションだ。」
と言うようになってみたら、
昔からやってきたトレーニングにもそうした要素がある、
そうした効果があると見直されてきた
だけのようにも見えます。
ただし、山西先生は偶然そうしたトレーニングを取り入れたわけではなく、
当時からバランスよく身体の各要素をトレーニングしようし、
クロストレーニングの意味をわかっていてトレーニングを配置したから、
先進性があったと私が評しているわけです。


※2 逆立ちや手押し車やセミ

逆立ちや手押し車は、
体重支持に慣れていない両上肢帯(肩甲骨~腕~手)で体重支持をし、
身体を逆さまや横にした姿勢で保つので、
背骨(腰椎)を反らさないように支えれば体幹(コア)に強い負荷をかける
立派なコア・トレーニングとなる

腕立て伏せも同様で、脊柱(体幹)を真っ直ぐに保ったまま行えば
肩・上肢・胸とともにコアのトレーニングとなる。
セミ(木の幹にしがみつく)のも上肢・下肢の筋力だけでなく、
それをつなぐ体幹(コア)のトレーニングにもなる。
共通するのはバランスを含め姿勢制御が課題となるのであり、
昔から多くの運動部でやられていたことであろうことであるが、
近年の体育授業の内容または教師の変化からか、
こうした運動経験が乏しく、
従ってコアの筋力・コントロールの下手な運動部員が多くなったと感じる

コア・トレーニングやバランス・トレーニング、
スタビライゼーションなどと言われなくても
昔から自分の身体を使ったトレーニングで強化していたのである。
特に高校生までは様々な身体動作・運動経験をさせてやるべきである

※3 ハンマーをスイングする

ハンマーを両手で持ち、
ハンマー投げのスイングのように自分の身体の周りを回す運動である。
一般用7.26kgのハンマーをスイングするのは
中長距離選手にはきついが、
スイング中体幹部の筋群が強く締まるのが感じられる。
群大の選手はあまり速くならなかったが、
当時としてはトレーニングはバラエティに富んでいたと思う。
山西先生は、あの小さな身体で上手にスイングしていた。


※4 個人的に活躍した選手

その最大の選手は、磯貝(旧姓)美奈子選手であろう。
群馬県立富岡東高校で時代、インターハイ女子走り幅跳びで2連覇し、
群馬大学入学後も走り幅跳び(6m58)と七種競技(5537)の
日本新記録をマークしている。
実際の大学時代の陸上競技の指導は、高校時代に引き続き
高橋賢作氏(現中央大学女子陸上部監督)が行っていた。

しかし、陸上競技部員として、教育学部保健体育研究室生として
山西先生に受けた影響は小さくないようである。



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フィジカル系職人

Author:フィジカル系職人
職業:マッサージ・鍼治療院経営
   アスレティックトレーナー
生息地:群馬
本名:佐藤 暢彦

身体のこと、治療のこと、スポーツのこと、などなど。日頃考えていること、興味を持っていることについて、書いていきたいと思います。

このブログについて:更新作業は治療室内のMacで行なっていますので、早朝や深夜、休業日の木曜に更新されることは基本的にありません。



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